トルク伝達と頭飛び
第6話では、樹脂専用タッピンねじ、第4世代のタッピンねじの最高峰であるノンサートの開発の話だったので、310スリムの開発の話が第7話と言うことで。
30年位前の話。会社員時代に東京のアヅマネジ・篠崎社長が、DIN7984とDIN6912の低頭シリーズのねじを在庫販売したら面白いかなと。さらに極低頭キャップも良いのではないかと話が弾んだ。極低頭の日本語名はその時に決まった。
ただ、7984、6912、当時の極低頭には弱点があり、その弱点をねじユーザー設計者に指摘されると、「スイマセン...わたしの力ではスペック変更が出来ないので...」を繰り返すのみでした。
六角穴や普通の十字穴ではその弱点を解決できず、さらにトルク伝達が不正確なためにキッチリした締結が難しかった。トルク伝達がバラつくと、正規トルクで締結しても緩む原因となり、現場では少し大きなトルクで締結...そしてそれが進むとねじの首飛びとなる。
ヨーロッパでは、以前から星形の穴、リセスのヘキサロビュラー(開発元名はトルクス)が使用されることが日本の数百倍多い。理由は簡単で、六角穴よりも十字穴よりもトルク伝達が良好だから。管理が簡単。六角穴や十字穴の様な穴の崩れ、破損もありません。日本とヨーロッパのユーザー設計者の思想の違いでもあります。
310スリムは頭部厚さを0.5㎜(M2)まで薄くしています。開発初期は、試作品の頭部が次々と飛びます。この程度のトルクで頭が飛んでしまったらNG。ねじ製造者が簡単にできる、「あの補強」をしたら、ねじユーザーからはNGを食らってしまう。各サイズの頭の高さはこれにしたい。しかし、強度区分4.6のねじを締結可能なトルクをかけても頭が飛ばないようにしたい。さらに、あの簡単な首の補強はしないでね...
結果、特殊工具、特殊素材、特殊素材径になってしまいましたが、特殊工具の在庫を揃えて、素材在庫(ワイヤー)も一定以上在庫して安定供給と生産コストの一定化を行っています。
鉄道関係の設計者より、星形のヘキサロビュラーではなく、十字穴で採用したいと話が有り、普通の十字穴では310スリムの製造スペックでは、ねじの機能が不完全になるので、第6話で登場する、新GMさんと怪人小長井氏の古巣の会社のパテント「クオ」で解決できないかと試作を開始。コーゾー・ヤマモト氏から、クオの開発段階から何度もレクチャーを受けていたので、一回試したいと直感が働く。クオの特徴は、一般の十字ドライバーもメンテで使用可能。十字に見えますが、ただの十字ではないのです、と言うのが特徴。
簡単に製造できると思っていました。こんなに試作を繰り返すとは思いませんでした。頭部が丸くならない理由が誰にも分かりませんでした。食いつきが良すぎて、ねじの首が飛ぶなんて、誰も想像しませんでした。企画、開発、製造...みんなねじのプロだったのに、誰も理由が分かりませんでした。
時間がかかりましたが、現在は在庫品として販売しています。
次回、第8話は、組織の筋力アップについてのお話をさせていただきます。